innate8の日記

大海を泳ぐ

雪の話

 僕の住む街にも、とうとう雪が降った。天気予報士は、「週末にかけて寒波が到来し、広い範囲で雪になるでしょう」と笑顔で言った。予報は当たり、いくばくか積もった。

 僕は雪が好きだ。世間的には交通機関が麻痺したり、スタットレスを履いていない車がスリップしたり、まあ、あまり良い印象は無い。細雪が、はらはらと夕闇の中を舞う様に、少し心が弾んだ。ある程度積もったら、外に出て処女雪を踏む。すると、足の裏でキシキシと音がし、足の形に縁取られた。指先で触れると、パウダースノーには程遠い、荒い雪が冷たかった。しばらくそんな事を年甲斐も無く行い、満足し、眠った。朝になると—どうやら明け方に雨に変わったらしいーほとんど消えていた。相変わらず、空は分厚い雲で覆われ、濡れたコンクリートが発する埃っぽい香りと、大気に充満した雨の匂いが、そこら中に染み込んでいた。寒さに身震いする。心の中にある空洞みたいなものが、少し広がった気がした。

 昔からこの辺りは、殆ど雪が降らない。北西に広がる山脈が大陸から吹く風の水分を奪い、乾っ風と埃をもたらした。だから、冬になると遠く北西の稜線は白く輝き、僕は悔しい気持ちになるのだった。「なんでここには雪が降らないんだ」と、半ば本気で腹を立てた。

 カレンダーを見ると、早いもので2016年も一ヶ月が終わった。厳しい寒さは後二ヶ月も経たないうちに和らいで、春が訪れる。今シーズンは、あと何度雪が降り積もるのだろうか。僕はいつまで、童心に戻り冬の結晶に感動できるのだろうか。そんな事を思った。

 モニターの向こう側の天気予報士は言う。

 明日は概ね晴れるでしょう。
 時々雲も出ますが、
 だいたいは
 日差しを
 感じる
 事が
 …
 。