innate8の日記

大海を泳ぐ

【書評/感想】「まほろ駅前多田便利軒」

二人の孤独が交わるとき

 三浦しをんの小説は何冊か読んだことがある。どれも現代小説風(娯楽小説)の文体でサクサク読み進められるのが特徴だ。話のプロット自体はそれほど奇をてらうものではないけど、一般人があまり知らない世界の内情を描くのがうまいというか、目の付け所がうまくて中々楽しめる小説を書く作家と認識している。

 まほろ駅前多田便利軒を読むきっかけとなったのは映画版を観たからだ。僕は松田龍平が好きで、彼の作品を片っ端から見ていたら、まほろ駅前多田便利軒と出会ったのだった。

 映像化されてから原作を読むと、俳優たちが印象に残ってしまって小説は楽しめないかと思っていた節もあったのだけど、まほろの場合は逆だった。つまり、配役がぴったりすぎて原作を食っていた。映画的には成功だったようだ。

 話の筋を簡単に説明する。主人公の多田が個人経営する「まほろ駅前多田便利軒」に、高校生時代の同級生だった仰天という男が転がり込んでくる。雑務をこなす、ありふれた日常を送っていた多田。しかし、仰天の登場で日常が非日常へと変わっていく。この二人のコンビにふりかかる災難を描いている。

 表面上では娯楽小説の体をなしているのだけど、裏に流れているメッセージ性は重い物だと感じた。二人の主人公はバツイチ&暗い過去を引きずって生きており孤独の人生を歩んでいた。二人の孤独が交わったとき、少しづつ心境に変化が訪れ、雪が溶けるように徐々にその心の内や暗い過去が明らかになっていく。もしかしたら、著者は救いの物語を描きたいのかもしれない。

歯切れのよい文体だが……

 文章自体は歯切れのよい文体である。歯切れの良い文体であるから、表現が上手くないのかというとそういうわけでもなく、可もなく不可もなしと言った感じだ。小説としては十分だけど、思想的なことは一切盛り込まれてないので、少し軽すぎる感じがしてしまう。特に文豪と呼ばれる作家達を読んだあとに、この小説を読むとすらすら読めすぎて物足りなく感じてしまう。

映像化ありき?

 上記に書いたことと関連するのだけど、思想的なことが一切盛り込まれていない、つまり表現と説明・会話だけで構成されているため、脚本を読んでいる様な感じがした。もしかしたら、映像化することを意識して小説自体を書いたのかなとも感じた。映像を見ていない人にはわかりにくい情景もあったのかもしれないな。

女性版石田衣良

 三浦しをんという作家の文体やスタンスは誰かに似ていると感じたのだが、石田衣良だ。娯楽的で映像化向けで知らない世界を積極的に描いていく。そして、恋愛小説が多い。やっぱり女性版石田衣良だなと感じた。

おわりに

 純粋に小説は楽しめたのでよかった。それでもって、まほろ駅前多田便利軒の続編が二冊も出ている訳でそっちも読まないとな。ちなみに第三作の「まほろ駅前狂騒曲」は来年?映画化らしいです。そっちも見なきゃな。なんだかんだ言って、ファンになってるなこりゃ。

まほろ駅前多田便利軒 (文春文庫)

まほろ駅前多田便利軒 (文春文庫)

まほろ駅前番外地 (文春文庫)

まほろ駅前番外地 (文春文庫)

まほろ駅前狂騒曲

まほろ駅前狂騒曲