innate8の日記

大海を泳ぐ

日常に潜む不条理-カミュ「異邦人」を読んだ感想

カミュの異邦人が古本屋に行くと必ずというほど目にするから、そんなに面白くないのか、それとも名作中の名作で発行部数が多過ぎるのか気になって読んでみた。

タイトルから勝手に旅とか異郷の地を訪れた人の話だと思っていたのだけれど全く別物で、母親の死と殺人を犯した男が現実を受け止められずにいるという話だった。大雑把に書くとこうなるが、本当のところ犯罪者の目を通した不条理を描いている。詳しくは下で書く。

で、ここでいう異邦人ってのは、現実と非現実って意味合いで使われてるんじゃないかと思う。

この本のテーマは人間の不条理で、自分の思惑とか常識みたいなもが捻じ曲げられて行く様を描いている。主人公は自己防衛的に殺人を犯してしまうのだが、弁明の余地虚しく死刑を求刑される。しかも公開斬首刑。ここで主人公は、現実で起きている事と自分の内側の世界の大きな隔たりを超える事が出来なくて、いわば第三者的な立場でしか物事を考えることができなくなっている。

これはカミュが不条理を発生させるために仕掛けたものだと思う。要は読者は主人公目線で話を読んでいるから、主人公側が正義なんだけど、主人公自身が現実から乖離してしまって現実とのズレがあるため、周りから批難さることになる。特に、母親の死を他人事の様にしか受け止められず知らん顔してしまう部分などで激しい批難を浴び、結果として死刑を求刑される。この主人公と世間のズレによって不条理が発生する。

あともう一つ重要な点が、人間の生や人生の常識に対する不条理について。人間はいつか死ぬし、自分が思った通りの行動が制限されていたり欲を殺して生きているけど、それは自由を奪われた囚人と同じではないのか?という問い。

この辺りは、宗教も絡めて語られている。結局主人公は死刑執行の猶予期間で恐怖に支配され不条理を飲む事になる。また、宗教のフィルターで人間性が一般化させられ始める。

カミュは、日常の中に不条理は潜んでいるけど、刷り込まれて気がつかないか知らず知らずのうちに不条理を飲み込んでいると伝えようとしていると感じる。あくまで僕の感想だけど。これが、先ほど書いた後者の答えになると思う。

薄い本だけど、内容は濃いし難解だと思う。ノーベル文学賞取るだけの価値はある。

異邦人はカミュの処女作にして傑作と言われている。カミュは貧困のため読み書きもままならない家庭で育ったけど、こんな作品が書けるなんて天才としか思えない。しかも処女作。

古本屋に平積みされてるけど読む価値はあるのでぜひ手にとって欲しい。